オズのダイヤ使い(著:末羽瑛)
タイトルは『オズの魔法使い』のパロディかと思われますが、内容はあまり関係なさそうです。
タイトルからはまったく想像出来ませんでしたが、砂塵舞う荒野を駆けるような泥臭いロボットバトルモノです。
主人公の旅の目的、出会った人々との関係、世界を支える宝石、そうしたものがうまく組み合わさり、世界観は良く出来ていると思います。
展開も早く読み進めやすいです。
ただ、お話の都合が良すぎるためか、先の展開がある程度予想出来てしまうのと、登場人物の多さのわりに狭い世界だなという印象を受けました。
1巻である程度完結させるためには仕方がないのかもしれません。
宝石に人格が宿るという設定は、アンドロイドが人格を有するための理由としてとても素晴らしい考えじゃないかと思ったのですが、一方で宝石に人格が宿る条件は曖昧というか、複数の宝石に分割で宿ったり、もう一人の人格を追加してもいいみたいだし、宝石を身につけている必要もなかったり……よく分かりませんでした。
人格と記憶以外にも、三人称視点の映像も記録できちゃうみたいなので、それら全部ひとまとめにエネルギー!ってことでなんでもアリなんだと思います。
デュアル・イレイザー(著:折口良乃)
タイトルでもある『デュアル・イレイザー』という対戦アクションゲームを題材ににした作品です。
『イレイザー』と呼ばれるフィギュアを実際に戦わせる設定はガンダムビルドファイターズを彷彿とさせますが、こちらの作品が先発です。
また、ロボットの操縦は二人乗りの専用筐体(昔ゲーセンであった戦場の絆みたいなイメージでしょうか)で行うのが基本のようで、ソロプレイが好きな私としては実際にあってもあんまりやる気はしないなあという感じです。
おそらく二人乗りという設定は作劇上の都合なのでしょう、一人乗りで全一の実力を誇るヒロインの後部座席に主人公が乗り込むというのがストーリーの重要な流れです。
そして、このヒロインはある理由からゲームでの戦いに勝ち続けなければならないのですが、そういった事情に関わる上でも主人公とヒロインが一緒に戦うというのは当然の展開だと思います。
この作品は、ほとんどが主人公の一人称で語られていくのですが、口語調と文語調というか、地の文に崩した表現と堅めの表現が混ざっているため、状況を説明しているのか心情の描写なのか判然とせず、とても読みにくいです。
それに合わせて主人公の性格は控えめに言っても傲岸不遜で、強気の言動や、ヒロインのことは理解できないと距離を置くような発言をしておきながら、「俺は役立たずだと理解した」なんて言いつつ関わろうとする心理は読んでいて非常にストレスが貯まります。
ヒロインの生い立ちや戦う理由、それらに関わる心理も当然、主人公の一人称によって語られるので、キャラクターの魅力がほとんど伝わってきません。
伝わってこないのは主人公も含めてキャラクターの造形に問題があると思います。
とくに描写が足りないというわけではありませんが、私としては主人公の内面なんて知りたくもねーよって感じでした。これは好みの問題かもしれませんね。
これなら三人称視点のほうがまだ良かったかも…。
とはいえ、戦闘描写は分かりやすいほうだと思いました。敵側の如何にも悪役めいた台詞もなかなかいいものです。
ただ、ヒロインの護衛が都合二人しかいないってのはどうなんでしょう…イレイザーに細工をされるとあっさりバランスが崩壊するのもどうかと思いますし、対戦中に設定変更っていうのも展開としては熱いんですけどそれって他のプレイヤーも同じことができるかもしれませんよねって感じですし、筐体から出てるケーブルにカッターで細工されたらアウトってのも…謎の技術で実現されている文句のわりにシステム脆弱すぎない? というのが正直な感想です。
冠絶の姫王と召喚騎士(著:宮沢周)
主人公の属性の一つに、『家族に凄い人物がいる』というものがあります。
それは、主人公を苦しめる存在であったり、特に物語に関わってくることのない自由なキャラであったり、大切な場面で助けてくれたりする…わけですが、強い存在というものを作劇の中で活かすのはなかなか難しいのではないかと感じるところです。
この作品は、どこか遠くの王国の姫同士の覇権争いに巻き込まれる主人公の活躍を描いた……具体的にいうと、今期アニメで放送中の『魔装学園H×H』よろしく、主人公が回復ユニットとして活躍しそうな物語です。
まあ、Fateとかでも、エッチなことをするのが一番魔力みたいなそんなすごいパワーを供給しやすいとか、そんな感じですし……いいんじゃないですか。
ヒロインと主人公で想定された主従が逆転しているというのも、昨今ではわりとある設定のような気がします。
主人公には姉がおり、主人公自身の特異体質や平凡な日常を望む心情にとても影響を与えているのですが、この設定はいらないんじゃないかっていうくらい、前半中盤の展開は退屈というか、読んでいてストレスが溜まります。
それも当然で、人違いから命を張る戦いに巻き込まれては、ヒロインである姫に主従を迫られ、半ば強引に事を進められれば主人公でなくとも反感を覚えるのは当然だと思います。
もちろん、そんな日常の中で姫に対して心を開きかけるシーンもなくはありませんが、少なすぎます。
そんな日常を経て、ラストバトルで満身創痍のピンチになったからって、急に(私はそう感じました)主人公が「俺はお前に協力する。」なんて言われても、それに至る積み重ねをほとん感じないので、読んでいてまったく心に響きません。
とは言え、ラストの展開はとてもいいです。主人公も熱く、二人のお姫様も可愛い。問題は、そこに至る経緯です。
問題といえば、幼なじみの扱いがひどすぎるので、これも必要あったのかなという感じです。
ところで、股間のことを『腰にある第二の心臓(P129)』と表現したのはとても面白いと思いました。
超粒子実験都市のフラウ Code-1# 百万の結晶少女(著:土屋つかさ)
タイトルにルビをふるようにすると、Wordpressの投稿一覧がとてもゴチャゴチャするのでどうにかしたいところです。
ついでに、本文中にもリンク挿入・解除ボタンみたいに、ルビを設定できる仕組みができればと思います。
プラグインあるみたいですけどね。
この作品は、便利な粒子で栄える都市での少年少女の出会いと戦いを描いた物語です。ジャンルとしてはボーイ・ミーツ・ガールでしょうか。
ロボットは人間を愛せるのか? という疑問は本格的なSF足りうるテーマだと思います。
ただ、王道というか、ありきたりに過ぎる展開のため逆に起伏のない物語になってしまっているような気がします。
じゃあどういう物語だったらよかったのか、と言われてもそんなの分かりません。
フラウちゃんに生殖機能があるってサラッと書かれてましたけど、どんな子どもが生まれるんでしょ?
フラウちゃんに「人間に幸福をもたらし得る行為」を「実践」して「記憶装置」に「体験」を「挿入」してなんて言われたらおじさんムフフって感じですね。いい作品だと思います。
ダウトコール ―三流作家と薄幸執事の超能力詐称事件特別対策―
知力と機転を尽くして欺瞞を破る、そんな作品です。
主人公が恐ろしいストーカーから逃げ、お嬢様の通う学園に雪崩れ込む非日常の連続は一見雑なようですが、構成自体は良く出来ていると思います。
「作家ってよく自殺するイメージがあるんだけど、お前はしないのか?」
P154
ただし、自身の不幸体質や宗教団体を壊滅させた杵柄などで雑学に詳しい主人公と、文学を愛するヒロインの皮肉たっぷりの掛け合いがほとんど全編にわたって展開されているため、すこしクドいと感じるかもしれません。
絵はとても良いです。挿絵の茜ちゃんが可愛いのはとてもグッドです。
続きがないのは惜しいような気もしますが、仕方がないのでしょう。