転生少女の履歴書 1(著:唐澤和希)
本格的にライトノベルを読むようになったのは実家を出てからなので、つまり成人して以降ということになり…、そう考えると遅咲きすぎない?って思うわけですが、ライトノベルとはいえ買い続けるとなかなかの金額になるわけで、収入があることに感謝する毎日です。
その読み始めた頃というとだいたい2009年とか10年辺りなわけですけれども、調べてみるとあんまりピンとくるタイトルがありません…本屋で推されている作品はだいたい来期アニメ化!とか絶賛放送中!みたいな物が多いわけで、その時刊行された作品=読んでました、ってことにはならないのかもしれませんね。
ところで、『放送中』と『放映中』ってどちらが正しいのか気になりましたが、TVアニメはどちらかというと放送中とするのがいいようです。
「放映」と「放送」の使い分け | ことば(放送用語) – 放送現場の疑問・視聴者の疑問 | NHK放送文化研究所
本作はいわゆる、なろう系と称されるところの異世界転生モノになります。
主人公は交通事故などで現世に別れを告げ、記憶を引き継いだ状態で異世界に転生する…。
いつの間にか市場はそんな作品で溢れかえっている印象なのですが、時代の潮流は間違いなくこういったジャンルの作品にあるのではないかと感じます。
とはいえ「小説家になろう」のサイトのことは全く知らず、今もよくわからないので、特になろう系のライトノベルを買い集めているわけではないのですが、この作品は今まで読んだ転生モノの中で一番面白いんじゃないかと思いました。
主人公がどの時点で転生したかにもよるとは思うのですが、年齢に見合わない知識と勇壮さで異世界を攻略していく…という王道?を少し外して主人公の精神年齢はあまり高くない印象です。
そういった、転生前から引き継いだものをバランスよく使って主人公の成長物語としている点が面白いです。
あと、珍しく主人公が正真正銘の女性です。明るく前向きな、けれどもどこか影のある、そんな性格が地の文によく表現されています。
異世界転生が普通のファンタジー小説と違う点は私たち現代の人間の言葉や用語をそのままレトリックとして機能させることができる点にあると思います。
主人公のリョウが、貴族の小間使いとして働く毎日を、また方方へ奔走し忙しい日々を送る屋敷の主人をみて『ブラック企業』と評する一文は異世界転生ファンタジーが『転生』たる所以でしょう。
そういった主人公の一人称でサクサク進む文章も読みやすいです。
1巻でもだいぶ波乱万丈の履歴書が完成したな…といったところですが、2巻以降は落ち着いた話になるのでしょうか? 主人公の周りのキャラをみるにそうもいかないような、そんな気もします。
追跡者たち 上・下(著:デオン・メイヤー)
“何でも相談して”と言いながら、誰も手を差し伸べようとする勇気は持ち合わせていないのだ。
上巻・P354
上下巻の長編小説です。
「ミステリの新たなる地平!」だとか、偉大なアドヴェンチャー小説などと言われると、どんなものか気になってしまうものですが、なかなかおもしろかったです。
本作は複数の視点、事象から構成されており、一見無関係に思える出来事もどこかで繋がっている…そんなオムニバス的な作品に仕上がっています。
読んでいる間は「えっ、あの人どうなったの?」と心配になるくらいでしたが、しっかりとオチはありますのでご安心を(と書くのもネタバレになるんじゃないかと心配するほど各々の独立性は高いです)。
とはいえ、少し読みづらいというか、最初の主人公であるミラが離婚、再就職をして南アフリカ大統領府の情報部で報告書をまとめる仕事をしている間の描写はとても退屈です。
それは私自身が舞台となっている南アフリカの事情に非常に疎いというのもあると思うのですが…。
盗聴記録と思しきレポートやミラ自身の日記が時系列を無視して挿入されているのもあってか、登場人物の相関図を頭に思い描くのに苦労します。一応それらは丁寧に説明されているので、そこまで苦心するというものでもないとは思います。
そして上巻の後半から始まる、クロサイの輸入にまつわる話の辺りから面白くなってきます。一応前半部分も手に汗握るマイク設置作業など、ギリギリのスリルをとてもよく表現している場面はあります。
下巻までくれば、後はすんなり読み進めることが出来ると思います。謎が解き明かされていく中で、それまで説明された、あるいは起きた様々な事象がつながっていく感覚は気持ちが良いです。
欺く者は、きまってそれ以上の行いに手を染めているものなのだ。
下巻・P378
よくここまでまとめたと感心するほど作品の完成度が高いために、あまり上手い感想を書けないのがもどかしいのですが、読み応えのある作品です。
2016年冬アニメ(中間報告的)感想
まだ2016年も始まったばかり、アニメも始まったばかりで3、4話を消化といったところですが、早くもネット上に分かったような感想をぶち上げる早漏なオタクどもをチラチラと見かけるので私も尻馬に乗る感じでテキトーに書いてみたいと思います。
エニグマ奇襲指令(著:マイケル・バー=ゾウハー)
第二次世界大戦、ドイツ占領下のフランスでナチスの手からエニグマと呼ばれる秘密暗号機を奪取し、連合国イギリスへ持ち帰る……。そんなムチャクチャかつ明瞭な使命を帯びた、“男爵”を自称する主人公のスパイ小説であり、冒険小説です。
エニグマといえば、
ナチス・ドイツの暗号機エニグマ実機、謎の人物が約2900万円で落札 – Engadget Japanese
という記事を思い出しますが、実際の中身については『暗号解読』なんかを読むといいのではないかと思います。
主人公は飄々とした捉えどころのないキャラクターでユーモアに富んだところがありますが、あまりその性格を作中で生かせていない感じがあります。戦時下、秘密警察の闊歩する世で役に立つのは彼の性格と彼の父親によって築かれた人脈ということでしょうか。
設定された時代と背景は何人にも恐怖と悲劇をもたらし、緊張を強いるものになっています。
そういった、なにが起きるかわからないギリギリの展開が続きますから、読者は飽きずに読み進められると思います。
縫い針より大きい大国同士が針に糸を通す以上の繊細さで挑む情報戦…という要素も薄いので個人的にはとても読みやすい本でした。
続編を期待しちゃうのは野暮なんですかね。
それだけ魅力のある一冊だと思います。
もう年はとれない(著:ダニエル・フリードマン)
世の中は消耗しきった人間でいっぱいだ。(中略)だれもかれもがぐだぐだと考えている。とりかえしのつかないあやまち、逃したチャンス、しくじった好機について。
P25
著者と、その周りの人間のリアルで重みのある経験などがこの本のストーリーとキャラクターに大きな影響を与えているせいか、作中ではやけに含蓄のあるような、達観した言い回しが随所にみられます。
現役を退いて久しい元刑事が、刑事になる以前の過去の因縁にケリをつける…警察小説とは言いがたい感じですが、いい感じに読みやすいミステリーに仕上がっていると思います。
午前三時に電話が鳴った。
午前三時にわたしに電話してくる者はいない。午前三時にわたしは電話しない。人がやっていいことではない。なにが起きたのだろうと、知ったことか。
P115
テレビ東京の番組『サタシネ』で2週連続『コクーン』、『コクーン2』を放映していたせいか、いつかはやってくる老いというものについて多少なりとも考えたりします。
今現在おおむね若者風情といった私でも、生きていく上で煩わしさや億劫に思うことに遭遇することはあります。老いというものがその億劫さを多く、大きくしていくとしたら、その不安を意味のないものと切り捨てるのは難しいでしょう。
ともかく、内容としては大きな後悔と少しの懐古、場当たり的な衝動でグイグイ進んでいきますので、あまり複雑なロジックがなくわかりやすいものになっています。
疑問点があるとしたら、いくつかの説明されない点と、主人公の孫が犯した失態のツケの精算方法でしょうか。結果的には解決しましたが、そうならなかった場合……。
シニア・ノワール。擦れっ枯らしで苦みばしった、老いてもなおハードボイルドを体現する主人公の、味のあるキャラクターが魅力です。