日記

始まらない終末戦争と終わってる私らの青春活劇2(著:王雀孫)

2016.04.04

あの王雀孫がついにラノベ業界へ殴りこみ!というわけで順調に刊行が延期された1巻が発売された時はなにかの間違いではないかと思いましたが、2巻も(去年ですけど)出てくれました。
とは言っても正直時間が開いてしまったので、1巻も読み直しました。

1巻の帯には丸戸史明先生がコメントを寄せていますが、王雀孫先生もそのうちオリジナルアニメを作ったりするのでしょうか。一応『俺たちに翼はない』のアニメ脚本の一部を担当したようなので、ひょっとしたらひょっとするかもしれません。でもクラクラみたいな駄作は簡便な。

王雀孫テキストといえば、ユーモアにあふれたテンポの良さに定評がありますが、そこから生まれるキャラクターや印象に残るフレーズなども魅力です。
『それは舞い散る桜のように』一本で信者を大量に生産し、『俺たちに翼はない』で一気に人を選ぶ個性派ライターに昇華し遅筆家としての地位を築いたのも氏の才能の成せる技かなと思うわけです。

そんなわけで本作は、人を選ぶ作風を遺憾なく発揮した作品となっております。

「(略)ふーん……じゃあ、まあ、座ればその辺……」
P208

1巻は、発行元が集英社だからってジャンプネタを随所にちりばめ、エセおフランスギャグから7兆ネタまでとにかくやりたい放題でしたが、2巻もほとんど同じノリです。
ですが、主人公を取り巻く人間関係や学校生活の実態が少しずつ、ほんの少しだけ垣間見える内容となっています。

実を言うと信者的な色眼鏡で見ているだけで、めちゃくちゃ面白い!と思っているわけではありません。でも、テンポの良さとニヤリとするギャグ、独特の個性を持ったキャラクターには他の作品とは一線を画する物があると思います。

順調に増え続けるモブ先輩方が何人いるのか分かりませんが、今後も期待できるかと思います。

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ただ、それだけでよかったんです(著:松村涼哉)

2016.03.21

一個前の感想もそうですが、『第22回 電撃小説大賞 大賞受賞作』などと金色の帯で装丁してあれば、権力におもねり権威にかしずく私としては手に取るのもやむなしといったところです。

ですが、よく見ると『鎌池和馬大推薦!!!』と書いてありました。いや、別に含みがあるわけではありません。ライトノベル業界では確固たる地位を築いているであろう鎌池先生の推奨ならさぞ…えーと、その、ヘヴィーオブジェクトのアニメ面白いですよね。うん。

内容は…なんと言えばいいんでしょうか、家庭環境と教育制度、思春期の複雑な人間関係が合わさり引き起こされた悲劇を語る独白形式の小説です。

構成や展開に不満はありませんが、信頼できない語り手が好きではない人にはウケが悪いかもしれません。また、登場人物への共感が難しくオチもスッキリしません。
とはいえ、シリーズが続くような前提で売れ筋を意識した作品が挙がるより、より電撃小説大賞っぽい作品じゃないかな?と思いました。

本作のような異世界異文化異能力のない作品がもっと増えればいいなと思うんですけど、難しいのか、私が見つけられないだけなのか。
少しファンタジー要素があってもいいので、『タイム・リープ―あしたはきのう』とか、『紫色のクオリア』みたいなライトノベルが定期的に出てきたら泣いて喜びます。傲慢すぎますか。

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ロゥド・オブ・デュラハン(著:紫藤ケイ)

2016.03.16

積読消化シリーズ。

第3回『このライトノベルがすごい!』大賞・大賞受賞とありますが、どうなんでしょうね?
電撃大賞だからといって面白いかと言ったら、そんなん読んでみないと分からんしぃ、ってことで、あまり期待しすぎないほうがいいとは思うのですが、ちょっとは気になりますよね。
でも、買ったのはだいぶ前なので、なにを思って手にとったのかは不明です。

精霊『デュラハン』として人に仇なす死術師と戦い続ける女性、リィゼロットと、傭兵として生き抜く中で死術にまつわる事件に巻き込まれた少年アルフォンスの、これでもかというほど悲劇に満ちたダークファンタジーです。
お話自体は複雑でもなく、設定も分かりやすい感じでスイスイと読め…るかと思いきや、とても暗く起伏の少ない展開なので、少し飽きるかもしれません。

でもラストは『十二戦支爆烈エトレンジャー』的な熱い感じの展開がありますので、それほどつまらないとは思わなかったです。

シリーズ作のようですが、この一冊でも綺麗にまとまっているのはいいところじゃないでしょうか。

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転生少女の履歴書 1(著:唐澤和希)

2016.03.08

本格的にライトノベルを読むようになったのは実家を出てからなので、つまり成人して以降ということになり…、そう考えると遅咲きすぎない?って思うわけですが、ライトノベルとはいえ買い続けるとなかなかの金額になるわけで、収入があることに感謝する毎日です。
その読み始めた頃というとだいたい2009年とか10年辺りなわけですけれども、調べてみるとあんまりピンとくるタイトルがありません…本屋で推されている作品はだいたい来期アニメ化!とか絶賛放送中!みたいな物が多いわけで、その時刊行された作品=読んでました、ってことにはならないのかもしれませんね。

ところで、『放送中』と『放映中』ってどちらが正しいのか気になりましたが、TVアニメはどちらかというと放送中とするのがいいようです。
「放映」と「放送」の使い分け | ことば(放送用語) – 放送現場の疑問・視聴者の疑問 | NHK放送文化研究所

本作はいわゆる、なろう系と称されるところの異世界転生モノになります。
主人公は交通事故などで現世に別れを告げ、記憶を引き継いだ状態で異世界に転生する…。
いつの間にか市場はそんな作品で溢れかえっている印象なのですが、時代の潮流は間違いなくこういったジャンルの作品にあるのではないかと感じます。

とはいえ「小説家になろう」のサイトのことは全く知らず、今もよくわからないので、特になろう系のライトノベルを買い集めているわけではないのですが、この作品は今まで読んだ転生モノの中で一番面白いんじゃないかと思いました。

主人公がどの時点で転生したかにもよるとは思うのですが、年齢に見合わない知識と勇壮さで異世界を攻略していく…という王道?を少し外して主人公の精神年齢はあまり高くない印象です。
そういった、転生前から引き継いだものをバランスよく使って主人公の成長物語としている点が面白いです。

あと、珍しく主人公が正真正銘の女性です。明るく前向きな、けれどもどこか影のある、そんな性格が地の文によく表現されています。

異世界転生が普通のファンタジー小説と違う点は私たち現代の人間の言葉や用語をそのままレトリックとして機能させることができる点にあると思います。
主人公のリョウが、貴族の小間使いとして働く毎日を、また方方へ奔走し忙しい日々を送る屋敷の主人をみて『ブラック企業』と評する一文は異世界転生ファンタジーが『転生』たる所以でしょう。
そういった主人公の一人称でサクサク進む文章も読みやすいです。

1巻でもだいぶ波乱万丈の履歴書が完成したな…といったところですが、2巻以降は落ち着いた話になるのでしょうか? 主人公の周りのキャラをみるにそうもいかないような、そんな気もします。

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追跡者たち 上・下(著:デオン・メイヤー)

2016.02.18

“何でも相談して”と言いながら、誰も手を差し伸べようとする勇気は持ち合わせていないのだ。
上巻・P354

上下巻の長編小説です。
「ミステリの新たなる地平!」だとか、偉大なアドヴェンチャー小説などと言われると、どんなものか気になってしまうものですが、なかなかおもしろかったです。

本作は複数の視点、事象から構成されており、一見無関係に思える出来事もどこかで繋がっている…そんなオムニバス的な作品に仕上がっています。
読んでいる間は「えっ、あの人どうなったの?」と心配になるくらいでしたが、しっかりとオチはありますのでご安心を(と書くのもネタバレになるんじゃないかと心配するほど各々の独立性は高いです)。

とはいえ、少し読みづらいというか、最初の主人公であるミラが離婚、再就職をして南アフリカ大統領府の情報部で報告書をまとめる仕事をしている間の描写はとても退屈です。
それは私自身が舞台となっている南アフリカの事情に非常に疎いというのもあると思うのですが…。
盗聴記録と思しきレポートやミラ自身の日記が時系列を無視して挿入されているのもあってか、登場人物の相関図を頭に思い描くのに苦労します。一応それらは丁寧に説明されているので、そこまで苦心するというものでもないとは思います。

そして上巻の後半から始まる、クロサイの輸入にまつわる話の辺りから面白くなってきます。一応前半部分も手に汗握るマイク設置作業など、ギリギリのスリルをとてもよく表現している場面はあります。
下巻までくれば、後はすんなり読み進めることが出来ると思います。謎が解き明かされていく中で、それまで説明された、あるいは起きた様々な事象がつながっていく感覚は気持ちが良いです。

欺く者は、きまってそれ以上の行いに手を染めているものなのだ。
下巻・P378

よくここまでまとめたと感心するほど作品の完成度が高いために、あまり上手い感想を書けないのがもどかしいのですが、読み応えのある作品です。

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