日記

蜘蛛ですが、なにか?2(著:馬場翁)

2017.03.21

基本的には1巻と同じ流れで物語が進行します。

蜘蛛サイドは地道なレベル上げとスキル習得をしながら成長し、勇者サイドは学園へ入学し来たる魔王軍との戦いへ備える、そんな予想された展開……。

かと思いきや、蜘蛛サイドは不穏な響きのスキルや単語によって次第に深淵へと近づき、他の転生者たちも成長によって内面が否応なく変化していくという、なかなかシビアな世界観が見え隠れします。

そして追加される魔王サイドの物語。
ここにきて実のところ、各々の物語の時系列が実はまったく違っているということが明らかになるのがこの巻の重要なポイントでしょうか。

蜘蛛子ちゃんの成長物語を基本に、外の世界の物語も差し挟み、気になる情報を小出しにしていくという、バランスのとれた構成になっていると思います。

ところで、カティアちゃんの言葉遣いがけっこう変だと思うんですけど、意図したものなんでしょうかね?

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最強魔法師の隠遁計画1(著:イズシロ)

2017.03.20

よくもまあ、こんな金太郎あめみたいに代わり映えのしないジャンルの本を読めるなと自分でもビックリです。

最強の名に偽りなき主人公が未熟な同級生や後輩の成長を促しながら退役後の生活を謳歌する……と、ほぼタイトルから予想されるような内容です。

魔法や魔獣など、ファンタジー世界でありながら電気や液晶、ホログラムという単語が出てくるなど、表現は現代的です。貴族という身分もあるようですが、あまり重要な要素ではなさそうです。

魔法という概念、登場人物たちの描写は非常に丁寧で、世界観は良く出来ています。
よく出来ていますが、冗長なため物語の進行が非常に遅いです。そのため、この巻では大きな動きはありません。

また、主人公とヒロインたちの間には大きな経験の差があるためか、文章や掛け合いを通してだとあまり魅力を感じることが出来ませんでした。
これはキャラクター付けの問題かもしれません。テスフィアとアリスには明確な性格の違いがありますが、短い台詞や感嘆を表す文字だけだと、どちらの動きなのか読めないことがよくありました。

同じなろう系ということで、心理描写の冗長性や掛け合いの拙さが『魔法科高校の劣等生』の1巻あたりとすごく似ていると感じたのですが、どうなんでしょうね。

とりあえず、

結局、唖然とした顔を浮かべたその場の全員が中断していた試験のことを思い出すまでは、理事長に一纏めにされた黒煙が、すべて外へ追いやられるまでかかった。
P.216

というような難しい記述はなんとかしてほしいなと思いました。

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蜘蛛ですが、なにか?(著:馬場翁)

2017.03.20

単行本なんて滅多に買わないのですが、たまには一冊くらい買ってやろうかという気になったりもします。
ラノベといえば文庫、くらいには文庫が溢れている世の中、正直言って単行本はちょっと高いなあと思うわけですが、出版側もそれなりには自信があるということでしょうか。
ともかくCMを観て買ってしまった私はまんまとその売り方にかかってしまったということでしょう。

CMや帯の宣伝文句を読めば一目瞭然ですが、人外系転生モノです。

スキルやレベルアップの概念は非常にゲーム的なものの、それ以外は普通のファンタジー冒険譚です。

実際のところ、この巻では主人公の蜘蛛は生まれたダンジョン内を冒険して終わるのですが、主人公以外の転生者についても個々のストーリーが展開されるため、読者はダンジョン以外の世界についても少しだけ触れることが出来ます。

タイトルからしてそうですが、一部スラングを用いて描写される主人公の内面はあまり小説的ではないため、合わない人はいるかもしれません。

転生少女の履歴書』なんかが好きな人にはおすすめできる作品です。

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通常攻撃が全体攻撃で二回攻撃のお母さんは好きですか?(著:井中だちま)

2017.03.18

ちょっと前に結構話題になった本作ですが、買っちゃってました。

母親ラノベと言うと、『俺のかーちゃんが17歳になった』くらいしか読んだことがないのですが、ストーリー上では抹殺されていることの多い親を全面に出すというのはなかなか攻めたテーマだと思います。

オンライゲーム上で親子一緒に冒険することで、冷えきった親子関係を修復するのが目的……なんでしょうか。政府はもっとマシなことにお金を使ったらいいのではないかと思いました。

とにかく設定や描写が中途半端ではっきりしないため、興味がそそられなかったのか読むのに時間がかかってしまいました。親子というテーマはとてもいいものですが、内容は非常に浅く、特に響くものはありませんでした。

まず、冒険感が皆無です。世界が狭く、バランスも崩壊、ストーリーなど無いに等しく、クエストも行き当たりばったり、ゲームとして成立していません。
主人公はフルダイブということで楽しんでいるようですが、普通に考えたら痛みがある時点でかなりのクソゲーでしょう。

また、おそらく母親の同意があればゲームにほぼ強制参加、離婚して親権のない母親にもそんな権限があるのだとしたらかなり問題だと思うのですが……どうなんでしょうね。
ゲームに参加している間は学業が一時免除されるというのも、義務教育ならまだしも高校生にそれをやってなにか意味があるのか疑問でした。

一応、主人公真人とその母真々子の関係は少しリアルな感じがあり、読んでいて恥ずかしくなる部分もあったので、ここだけは良かったと思います。

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滝山コミューン一九七四(著:原武史)

2017.02.07

少し前に話題になったゴルスタ騒動で、関連した記事についていたコメントで紹介されていた本です。

Wikipediaによれば、コミューンとは『地方自治体の最小単位』とありますが、この本で言うコミューンとは社会運動における共同体を指すもののようです。
ある種のディストピアだとか、いまでは廃れてしまった社会体制、近年ではあまり聞かれなくなった思想などを想像せずにはいられない、とても興味を惹かれる素晴らしいタイトルだと思います。

この本は著者の小学校時代に起こった出来事を、当時の資料や関係者の証言から紐解いていく回顧録的な形式となっています。
著者や同級生の家庭環境、社会情勢、滝山団地という陸の孤島の特異性、学級集団が目指すもの…著者が『滝山コミューン』と呼ぶ共同体が実際に形成されていたのは全体から見るとほんのひと時であるように思いますが、そこに至る経緯と引用を交えた考察には十分な説得力を感じます。

一方で、著者自らが言うように各々の情景に対する著者の主観が色濃く出ているのも確かです。偽らざる真実を詳らかにするという姿勢は、一方で客観的な見方を排してしまうジレンマを孕んだものになっています。
とはいえ、蓋然性が失われているかというとそうでもなく、ドキュメンタリーとして良質な描写がなされています。

気になるところといえば、当事者への取材や資料などの協力のわりに、著者以外の関係者が当時のことをどう考えているのか殆ど語られないところです。
1974年度後期の代表児童委員長を務めた中村美由紀が著者に対してトラウマという言葉を使いながら語り、涙を流した(P.296)、著者に強烈な印象を与えた林間学校の運営委員長を務めた小林次郎が控えめに当時の心境をコメントする(P.236)など簡潔なものにとどまっています。

また、事実の羅列に対して、実際起こったことに対する描写がところどころ曖昧で憶測として記述されており、例えば前述の中村美由紀にはおそらく相当な取材を行ったはずであるのに、著者に対する『追求』の場で”ただこのとき、片山先生や中村美由紀がいたかどうかははっきりしない(P.298)”とするなど、どういった理由ではっきりしないのか、判然としない箇所があるのも確かです。

取材対象の個人情報への配慮や各人の記憶の欠如(P.324)が大きな理由だと思われますが、私が読んでいて足りないと思う理由に、一つ著者と目的の違いがあるのではと考えました。
読者である私は物語としてのディテールをみるが、しかし著者にとっては懐かしい記憶の一部であるということです。そこには書き手と受け手の根本的な齟齬があり、こういった面を指して「欠陥」を抱えていること(P.237)を認めているのではないかと感じました。

しかし、著者がかつて住んでいた地に自ら足を運んで感じた一つ一つの情景、当時の膨大な資料によって補強される思い出の数々に偽りはなく、それらが真摯に綴られた文章を読むに、この本の読者は、そういった思いに感化し自らの在りし日を想起せずにはいられない、そんなノスタルジーを内包した一冊です。

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